盆踊り中心の生活

盆踊りや祭りの体験記。身体で心で感じたことを綴っていきます。あぁ、明日はどこで踊ろうか。

歴史の中で踊り走り回る!【白鳥おどり②】

踊り会場の一角に人だかりができていた。太鼓がいくつか並べられ、何やら文字がたくさん書かれた大きな幕が飾られている。

この日は、踊りの前に「郡上宝暦義民太鼓」が上演されるらしい。

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郡上宝暦義民太鼓とは、江戸時代に起こった郡上藩宝暦騒動(郡上一揆)を題材とした太鼓演劇である。

 江戸時代、重税を課せられ苦しむ郡上の農民たちは、郡上金森藩に廃止するよう嘆願したが聞き入れられず、農民たちは団結し、死罪覚悟で江戸幕府に直訴する。その結果、農民同士の争いや、藩との争いが激化し、大混乱に陥る。

しかしそれをキッカケに、ついに訴願が受け入れられ、農民側が勝利。江戸の老中や幕府指導者が免職となり、郡上金森藩も取り潰しとなった。これにより農民たちの生活は良い方に向かっていくことになったのだ。

しかしその裏では厳しい裁きが下され、たくさんの義民たちの命が失われた。そんな自らの命を投げ打って人々の生活のために戦った義民たちの勇姿が今も語り継がれている。

 

文字がたくさん書いてある大きな幕というのは、「傘連判状」といって、この一揆に賛同する義民たちの名前が書かれたものだった。円形に書いてあるのは、誰が首謀者なのか分からなくするためで、これによりさらに結束が強くなったそうだ。

 

義民に扮した叩き手たちが奏でる太鼓の音色は、時に激しく、時に悲哀に満ちていた。

 

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最後に「源助さん」という曲が演奏され、義民たちは踊りながら徐々に一列になり、そのまま櫓のある方へと進んでいった。それに続いて、先ほどまで太鼓を見ていた観客たちも踊りながら列に加わる。

 

ここから白鳥おどりが始まるのだ。

ワタシはこの演出に鳥肌が立つほどの感動を覚えた。歴史の中にワタシも混ざっていく。その瞬間、言葉では言い表せないような喜びと、なんだか時空を超えてものすごく遠いところへ来てしまったような不思議な感じがした。

 そして、櫓のまわりに踊りの輪ができた。

 

さぁ、夜が明けるまで踊ろうではないか!

 

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白鳥おどりで踊られるのは8曲。(源助さん、シッチョイ、世栄、猫の子、神代、さのさ、八ツ坂、老坂)

 

シッチョイは、途中で「アーシッチョイシッチョイ」という合いの手を入れる。流れるように進む踊りが気持ちいい。

猫の子は、同じ名前の曲が郡上おどりにもあるが、踊りは少し違う。猫のような手つきをするところは一緒だ。(白鳥の猫は鳴かない)

老坂は、下駄を強く鳴らしながら踊る。ハマるとめちゃめちゃ楽しい。

難しいのは神代だ。他の曲に比べ、手数が多く、左右に忙しく行ったり来たりするので、間違えると危うく隣の人とぶつかってしまいそうになる。

 

観光客が増え、踊るのもやっとな郡上おどりに比べ、こちらは踊っている人のほとんどがおそらく地元の人々で、ローカルな雰囲気が漂っている。意外にも若者が多い。

子供の頃から近所でこんな素晴らしい踊りがあるなんて、本当に羨ましいと思った。

 

そして、ウワサのあの曲。世栄がかかると、何処からともなく若者たちが集まり出してきた。みんな「やるかあ〜」と嬉しそうに気合いを入れている。

 

腕を上げたり下げたり、手をくるくる回したりするこの踊り。普通の速さだとそんなに難しい踊りではないのだが、なんせテンポがハンパないのだ。最初は、速いけど何とかついていけるという感じだったのだが、徐々にテンポアップしていき、最後には走りながら踊っていた。

音頭取りはラップのごとく次々と言葉を並べ、

合いの手は「Hey!Hey!ドコサ!!」と夏フェスに来たように拳を上げながら叫ぶ。

真ん中では若者たちが踊りながら走り抜けていく。

ワタシはあっという間にその濁流に呑み込まれてしまった。

 

こ、これはスゴイ、、、!! 

 

ウワサには聞いていだが、ここまで激しいとは。ついに白鳥おどりの真骨頂を見てしまった。

 

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夜が深まるにつれて人の数が増えていき、踊りの輪も大きくなっていく。ワタシはひと通り踊りを覚え、ランダムに演奏される曲に対応できるようになっていた。やはり、身体に踊りが馴染んだ瞬間は最高に気持ちがいい。

ウワサ通り、郡上おどりと比べると白鳥おどりは全体的にテンポが早い。若者が多い理由もそこにあるのかも。

 

踊りの輪から少し離れて休んでいると、目をつぶってずっと椅子に座っているおじいさんがいる。お囃子を聴いているのか、お祭りの空気を感じているのか、はたまた眠っているのか、ワタシには分からなかったが、その気持ちよさそうな表情に何だかとても安心した。

白鳥おどりはこの町にしっかりと馴染み、守られていた。

 

ついに、最後の曲が演奏される。世栄だ。

全員集合といった感じで、さっきまで休んでいた若者たちも続々と集まってきた。

これまでで一番の盛り上がりを見せていた。

人々は走り回り、叫び、ついには今まで保っていた輪が崩れ、別の場所にも踊りの輪ができていた。櫓の周りをとり囲むように人々が押し寄せ、各々が好きなように、本能のままに踊り狂っていた。

 

「なぜ、踊るのか?」

その答えはまだ出ていないけど、もはやその意味を追求することすらバカバカしく思えてきた。

踊りが終わってしまうのを惜しむ気持ちと、終わりがあるからここまで我を忘れて踊ることができる、という矛盾と戦いながらも、今はこの濁流に逆らうことなく飲み込まれようとワタシも必死に踊り続ける。

 

 

踊る。踊る。

 

 

 

朝の4時、ついに白鳥おどりは終わりを迎えた。大きな拍手と共に、脱力感と、さっきまで忘れていた腰の痛みが襲ってくる。

そしてそれ以上の、達成感と心地よさがワタシを包んだ。

 

 これで終わるのかと思いきや、まさかのアンコール。

 

ま、まだ踊り足りないというのか、、!!

白鳥の人々の踊りに対する熱は並大抵のものではなかった。

 

「さのさ」を踊り、本当に本当に終了。

最後は下駄を両手に持ち打ち鳴らすという、白鳥おどりならではの一本締めでしめくくられた。

 

「カラン!!!」

 白鳥の町に踊り子たちの下駄の音が響き渡った。

 

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【白鳥おどり】

岐阜県郡上市白鳥町

7月中旬〜9月中旬 (徹夜おどり 8月13〜15日)

 

白山の入り口は徹夜おどりへと続く【白鳥おどり①】

岐阜県郡上八幡をさらに北上したところに白鳥(しろとり)という町がある。(長良川鉄道を利用する場合は美濃白鳥駅下車)

そこに『白鳥おどり』という徹夜で踊る盆踊りがある。その踊りはどうやら、郡上おどりよりもテンポが早く、激しいらしい。

 

これは行くしかないでしょう!!!

 

今回『徹夜盆踊りの旅 2016』と題して、前日には郡上おどりを徹夜で踊っていた。2日連続徹夜で踊るのは初めてだったので、ワタシにとっても未知の領域だ。前日の疲れを少々残しつつ、白鳥に向かう。

 

夕方、美濃白鳥駅に到着した。

 

人が、、、いない。

「あれ、今日盆踊りやるんだよ、、ね?」

少し不安になる。

こんなこと言ったら大変失礼なのだが、ここで徹夜おどりがあるとは思えないほどの、何もない田舎町だ。町を歩いてみても、駄菓子屋や履物屋、定食屋などが何件かある程度で、正直言って活気は、、あまりない。

ここで徹夜おどりがあるのか。

うーん、ますます興味が湧いてきた!!

 

 

郡上八幡と白鳥町は同じ郡上市ではあるが、町の成り立ちが全くちがう。郡上八幡は城下町として栄えてきた。古くから政治や商業の中心地であり、今も市役所や県の出先機関がここに置かれている。一方、白鳥町は白山信仰の地として栄えてきた。そう、ここは霊峰・白山への入り口なのである。その昔は修験者や参拝者などがたくさん往来していたそう。

 

実はワタシも、踊り会場に向かう前に長滝白山神社に参拝していた。この神社がまた素晴らしかった。参道に立ち並ぶ立派な木々達を見た瞬間に鳥肌がブアァっと立った。お盆真っ盛りにもかかわらずひんやりとしていて、気付けば神聖な空気に包まれていた。 

少し歩くと目の前に大きな拝殿が静かに佇んでいた。その泰然自若とした姿に圧倒される。

中央には立派な切子燈籠が飾られていて、毎年7月にこの場所で白鳥拝殿おどり発祥祭が行われるそう。この場所で人々がひしめき合いながら踊っているのを想像して、今度は是非その様子を目に焼き付けたいと思った。

 

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ひと通り参拝を済ますと、先ほどまで隠れていた太陽が雲の切れ間から顔を出した。拝殿とワタシに太陽の光が降り注ぐ。あまりに気持ち良くて、目をつぶって手を広げ、その暖かさと有り難さを身体中で感じた。なんかいい予感がする。

 

 

小さな商店街の真ん中に櫓が用意され、徐々に祭りの準備が始まっていた。「白鳥おどりは激しいらしい」という噂に少しビビって、郡上おどりの高下駄ではキツイかもと思い、町の履物屋さんで低めの下駄を購入。(地元のみなさんは高下駄で踊っていた!)

 

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浴衣に着替え、定食屋さんでカツ丼を喰らう。

徹夜おどりに勝つ!

(なにと戦っているのか、、)

 

準備は万端。

日も暮れいつの間にか人々が増えていて、町がようやく祭りらしい雰囲気に包まれた。

 

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つづく。

 

衝撃と感動のクライマックス!【新野の盆踊り②】


新野の盆踊りは3日間夜通し行われる。
初日と、2日目は夜9時〜朝6時まで踊り、最終日のみ朝方に「踊り神送りの儀式」というものが行われる。その時にだけ踊られるのが能登という踊りだ。

朝6時頃。ついに「能登」が始まった。
いままでの優雅な踊りとは、少し異なる力強い踊りだ。音頭取りや踊り子の唄声もそれに合わせるように力がはいる。クライマックスに近づいているのを感じた。

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櫓を見ると、さっきまで櫓を彩っていた、切子燈籠たちが外されているのに気付いた。あとから知ったのだが、この切子燈籠の数は、その年の新仏の数と同じだという。
何が始まるのだろう。期待に胸が膨らむ。

もう身体はへろへろだ。持病の腰痛が暴走し始めていた。しかし、徹夜盆踊りの旅もこの踊りで最後だと身体にムチを打ち、なんとか、どうにか、踊り続ける。(なんでこんなに頑張ってるんだろう、、)

ふと遠くを見ると、向こうの方から何かが近づいてきている。かすかに太鼓と鉦の音が聞こえ、目を凝らすと、切子燈籠を持った人々の行列がこちらに近づいていていた。
周りが急に騒がしくなる。

町の通りに大きな長い輪を作って踊っていたのだが、「小さい輪になって!」と誰かが言うと、その大きな長い輪が細胞分裂を起こすように次々と小さい輪が出来上がっていった。
人々の踊りと唄声に激しさが増していく。

ついに切子燈籠の行列が踊り手のところまで辿り着いた。踊り子たちはさらに大きな声で唄い、踊り続ける。
すると、行列の先頭にいた人がその踊りの輪を崩そうと、踊り子の体を押している。踊り子たちは崩されてたまるかと、お互いの肩に腕をかけ、ラグビースクラムの状態になった。

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そのスクラムを崩そうとする燈籠の列が「やめろやめろ!終わり終わり!」と激しく鉦を打ち鳴らし、踊り子たちはぴょんぴょんと跳ねながら唄い続ける。人々がぶつかり合い、激しいせめぎ合いが繰り広げられる。もうしっちゃかめっちゃかだ。しかし、盛り上がりは最高潮に達していた。

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隣の輪にいたワタシは、唖然としていた。

な、なんだこれは、、!?!?

昨夜の優雅な踊りからはまるで想像できないような光景が繰り広げられていた。
 
ついにスクラムが崩されてしまった。踊り子たちは唄うのをやめ、散らばっていく。燈籠の行
列が前に進んでくる。
そして踊り子たちはまた新たな輪を作る。

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新野の盆踊りは神仏混合の珍しい盆踊りだ。ご先祖様の霊と神様と一緒に踊る。
切子燈籠の行列は最後に神送りの儀式を行う、瑞光院を目指して進む。この神様を送る儀式が終わると盆が終わり、踊りをやめなくてはいけない。しかし、盆踊りが終わってしまうのを惜しむ踊り子たちはこれを阻止しようと、たくさんの輪を作り、踊りを続けようとする。

ついに、ワタシがいる輪に行列が辿り着いた。
隣の人たちとガッチリと肩を組み、踊り続ける。踊りたいものと止めさせたいもののせめぎ合いが始まった。
次の瞬間、体を押し込まれ、ワタシはあっと言う間に人の渦に巻き込まれてしまった。体と体がぶつかり合い、耳元では激しく鉦が鳴らされている。
完全に輪が崩されると、踊りと唄は止んだ。嵐が過ぎ去った後のように、ワタシは呆然とする。
しかし、隣からはまだ力強い唄声が聞こえている。ワタシもまた輪に混ざる。

これが約1時間ほど続けられ、ようやく最後の儀式が行われる瑞光院に到着した。高台にある、見渡しのいい場所だ。
人々が見守る中、先ほどまで行列になっていた切子燈籠が綺麗に折りたたまれ、積まれていく。

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行者がその前で呪文を唱える。「テイッ!」「トウッ!」と九字を切り、腰についていた刀を抜き、道切りをした次の瞬間、後ろの方から、

シュルシュルシュルシュル、、、、

パァァンッ!!!

と花火が上がった。
山にその音が響き渡り、見上げると眩しいくらい真っ青な空があった。ワタシは身体の底の方から熱いものが湧き上がってくるような感覚を感じ、なぜか涙が溢れそうになった。

そしてその合図で、積み重ねられた切子燈籠に火が点けられ、瞬く間に燃え上がっていった。
その灰たちが風にのって空へと舞い上がっていく様子が、本当にご先祖様や神様が帰って行くかのように思え、また感動を覚えた。
今年はここ数年で一番いい天気だったようで、山や田んぼの緑、空の青、炎の赤が色鮮やかで眩しかった。

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儀式は終わり、新野のお盆も終わった。

最後にもう一つ決まりがある。帰りの道は決してうしろを振り返ってはいけないらしい。
振り返ってしまうと、悪霊がついてしまうとか、踊りの神様がついて一年中踊らなくてはいけないなどの言い伝えがあるそう。
そしてみんなで「秋歌」を歌いながら、来た道を戻っていく。そんな習わしにもグッとくる。

新野の盆踊りにいく際は是非、最終日の「神送りの儀式」を体験することをおすすめする。



新野の盆踊りが終わったのと同時に、ワタシの「徹夜盆踊りの旅 2016」も終わりを迎えた。

他の盆踊りについてもまた改めて書こうと思うが、どの盆踊りもそれぞれ特徴があり、歴史があり、感動がある。
何百年という時間を経てもなお、変わらない人々の思いがそこにはあった。そして、それを自分の目で見て体験しているということに、最高のしあわせを感じる。


またもや盆踊りにハマってしまった。

さあ、次はどこで踊ろうか。

【新野の盆踊り】
長野県下伊那郡阿南町新野
毎年8月13〜16日 (17日の早朝まで)

すべての境界線がなくなる優雅な踊り【新野の盆踊り①】

長野県阿南町の新野(にいの)で行われている、新野の盆踊りに行ってきた。


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新野は南信地方に位置し、愛知県との県境にほど近い。近くに電車などは通っていないため、辿り着くまでにはかなりの時間を要する。(JR東海道新幹線豊橋-JR飯田線温田(ぬくた)駅(3時間程度)信南交通温田-新野(50分))
(追記:現在、信南交通バスは廃止。代わりに南部公共バスが運行している。「売木行」乗車「新野支所前」下車)
ワタシは車を利用して行ったのだが、山あいの国道をひたすら進んでいく。
 
そんな長野県の奥地にある新野の盆踊りは、500年以上続く盆踊りで、神々を供養する盆踊りの原型とも言われている。国の重要無形民俗文化財に指定されており、夜の9時〜翌朝の6時まで夜通し行われる。
今回、「徹夜盆踊りの旅 2016」と題して、郡上おどりからはじまり、白鳥おどり、そして新野の盆踊りを巡るプランを立てた。ラストを飾る新野の盆踊りは初めて参加するので、ワクワクが止まらない。何事も初めて経験することは楽しくてしょうがない。完全にワタシの好奇心のスイッチがオンになった。
 
新野に着くと、小さな集落に提灯が灯されていた。もうこれだけでノスタルジックな気持ちになりウルッときてしまう。
 
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真ん中には切子燈籠で綺麗に飾り付けられた櫓があり、その色鮮やかさに目が釘付けになってしまった。新野の盆踊りは楽器など鳴り物は使用せず、櫓の上にいる音頭取りの「音頭出し」と、櫓の下にいる踊り子の「返し」のみで踊る。音頭取りは唄いながら踊り、踊り手は踊りながら唄う。男性の低くずっしりとした唄声と、女性の高く伸びやかな唄声が混ざり合って、なんとも胸がギュッと締め付けられるような懐かしい気持ちになってくる。
踊りは扇子を使った踊り(すくいさ、音頭、おさま甚句、おやま)と、手踊り(高い山、十六、能登)があり、どれもゆったりした優雅な踊りだ。
 
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早速、輪の中に入る。
扇子を使って踊ったことがあまりないので、持ち方も分からずしどろもどろ隣の方の真似をしていると、それを見かねて保存会の方(おそらく。揃いの浴衣を着ていらした)が扇子の持ち方から優しく教えてくれた。
なるほど、扇子ってこう持つのか。
踊り方が分からないとなかなか楽しめないのだが、何回か踊ってコツをつかみ、それが身体に馴染んできて、違和感がなくなる、その瞬間がめちゃくちゃ気持ちいいのだ。手と足がスムーズに動くと、ああ、うまく振り付けたなぁと、なんとも言えない感動が襲ってくる。
 
そんな感じで何曲か教えて頂き、だいたいの曲を踊れるようになった。
 
それにしても、、、
 
 
眠い!!!
眠すぎる!!!
 
郡上おどりと白鳥おどりで徹夜して、疲労が溜まっているというのもあるが、それに加えこのゆったりと優雅な踊りや唄がさらに眠気を誘ってくる。郡上や白鳥は激しい踊りもあり、アドレナリンが出て眠気や疲れも忘れられるのだが、新野の盆踊りは本当の意味で自分を試されている気分になった。踊っている最中、何度もアッチの世界へ吸い込まれそうになる。寝ているのか寝ていないのか。アッチの世界なのかコッチの世界なのか。その境界線すら分からなくなる。
むしろこのテンションで朝まで踊るという方がクレイジーなんじゃないか。正直、これまでの徹夜踊りの中で一番過酷かもしれない。
 
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なんとか限界まで戦ったのだが、ついに睡魔に負けて2時間ほど仮眠を取ることに。
東京は豪雨だそう。こちらは星がたくさん出ている。明日もいい天気になりそうだ。
 
 
朝の4時半。目を覚ますと東の空がうっすらと明るくなって、夜が明ける準備を始めていた。
よし、もう一踏ん張りだ!とワタシも気合を入れて会場へ向かう。人々の唄声が聞こえてくると、なぜかものすごく安心した。夢ではなく、ちゃんと現実に存在しているのだ。
 
もう人も減っているだろう。と思ったら、むしろ増えていて驚いた。明らかに夜よりも活気が出ている。小さな子供たちも走り回っている。安心したのと同時に、どこか違う世界に来てしまったような不思議な気持ちになった。
 
仮眠したおかげで頭はスッキリとし、踊りに集中することが出来た、と思うのだが、なぜかそのあたりの記憶がない。記憶がないという事は身体と踊りが一つになり無意識に動いているからかもしれない。だとしたらすごく良いことだ。
 
グラデーションだった空の色の境界線は完全になくなり、一面が優しい青色になる。周りには踊る人々。この光景がワタシは大好きだ。なぜと言われるとなかなか答えられないのだが、朝がまたやってきたという喜びと、人間というものの面白さに自然と顔がほころんでしまう。
人がさらに増えていき、踊りの輪も縦長に伸びていく。
 
踊る、踊る、踊る。
 
 
そして、ついに山の方から太陽が顔を出す。強い光線が踊りの輪に差し込む。最高に気持ちいい。ワタシは目をつぶって、その光と暖かさを感じながら踊る。
 
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つづく。

東京の台所に現れた異世界で踊る【築地本願寺納涼盆踊り大会】

築地本願寺納涼盆踊りは今年で第69回目を迎えた。
浄土真宗本願寺派の寺院である築地本願寺は、2014年に国の重要文化財として指定されている。インドの宮殿を思わせる建物で、本堂の中にはパイプオルガンがあり、教会のような雰囲気もある。
綺麗に整列された提灯と相まって、気付けば遠くまで来てしまったような不思議な空間を生み出している。

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踊って楽しい!食べて楽しい!見て楽しい!
ここは “日本一美味しい盆踊り” と言われている。東京の台所である築地の有名店が屋台を出していて、人々の食欲を満たしている。食べ物目的で来ても十分に楽しめる盆踊り大会だ。

でもワタシは “踊り目的” なのだ。
とりあえずビールで喉を潤す。

4日間で3万人もの人が訪れるそうで、東京でもかなり大きな盆踊り大会だ。櫓も大きく、人々の踊りの輪も大きい。平日は仕事帰りのサラリーマンやOLも踊っているし、外国の方も多い。

ワタシも早速、巨大な渦の中に飛び込む。
曲目は、中央区の音頭である「これがお江戸の盆ダンス」や「大江戸助六音頭」「築地音頭」など、この地域ならではのものや、「斎太郎節」「法輪音頭」など他ではなかなか踊られないものまで、レベルの高いラインナップになっている。

盆踊りのいいところは、飛び込みで参加しても大体はその場で覚えられて楽しめるというところなのだけど、稀に難易度の高い踊りが紛れ込んでいる。ワタシの場合、「大江戸助六音頭」が何回見ても覚えられない。(紐を結ぶような振り付けのところが難しい、、) 「斎太郎節」もなかなか難しい。
これから盆踊りに参加してみたいという方は、YouTubeなどにたくさん上がっている動画で、事前に幾つか覚えてから行くと、より楽しめると思う。というか気持ちいい、、!!踊りの輪の中に馴染んでいく感じがたまらない。
といっても、盆踊りは上手い下手じゃなくて、楽しめればいいのだけれど。


盆踊りの途中の休憩時間に、大江戸助六太鼓の皆さんのパフォーマンスがあり、その迫力や軽快なバチさばきは圧巻だ。

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その後もノンストップで踊り続け、気付けば2時間が経っていた。それでもまだ踊りたいと思うのだからもうDS。(どうかしてる)

後ろ髪を引かれつつ、再び合掌する。

そして、築地と言ったらお寿司だろう!ということで、お疲れ様のお寿司を頂く。踊り疲れた体に海鮮が染み渡る。これだから盆踊りはやめられない。


築地本願寺納涼盆踊り大会】
東京都中央区築地  築地本願寺境内
7月下旬 または 8月上旬 (要確認)


伝統と流行が混ざり合うDEEPでPOPな盆踊り【中野駅前大盆踊り大会】

中野駅前大盆踊り大会に参加してきた。今年で4回目というまだ新しい盆踊りだ。中野サンプラザ前の広場で行われていて、駅が近いこともあって会場は多くの人で賑わっている。私が会場に着くと、すでに踊りの輪が何重にもなっていた。

 
こちらの盆踊りは日本舞踊鳳蝶流の若手家元、鳳蝶美成さんが踊りを指導している。
その名前からして、きっちりかっちりしてそうな方が、なにやら全身キラキラ光っている。よくお祭りで売っているあのキラキラ光るネコ耳や指輪などを身に付けているのだ。なのに踊りは優雅でしなやかで、そのギャップがなんだか可笑しい。
 

錦糸町を思わせる生唄生演奏スタイル

こちらの盆踊りは櫓がなく、その代わりにステージがあり、後ろには提灯がたくさん並んでいる。この感じは錦糸町河内音頭に似ているなと思った。スケールこそ小さいが、なんとなく形づくられた踊りの輪の感じもその要因のひとつだ。
 
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ステージの上には中野区民謡連盟の方々が生演奏していて、それに合わせて渋い唄声が響きわたる。やっぱりこの “生感” がたまらないのだ。摺り切れそうなテープの音もそれはそれで素晴らしく良いのだけれど、演奏している方々の熱や思いまでもが伝わってきて踊っていて気持ちがいい。おそらく、テンポなども踊り手を見ながら変えているのだと思う。
ただ、ここの盆踊りは錦糸町河内音頭のようにずっと生演奏ではなく、テープ(とは今は言わないか。CD?) も使い分けている。
 
 

どんな曲でもかかって来い!J-POP盆踊り

東京音頭、炭坑節などの定番曲から、郡上おどりのかわさき、河内音頭などが次々とかかっていく。黒石じょんがらや、ドダレバチなどアグレッシブな踊りもあり、飽きのこないラインナップになっている。
 
そして次にかかったのが、初音ミクの千本桜」である。三味線や尺八の中にエレキギターが加わる。一気に会場の雰囲気が変わった。ライブ会場のような若々しい熱気に包まれる。アップテンポな曲に乗り遅れないように、ワタシも必死についていく。(踊りは中野音頭と一緒だが、スピード感が全然違う)
この曲を取り入れたのは、やはり中野という土地柄、オタク文化を意識したものなのだろうか、なかなか面白いじゃないか!と思ったのも束の間、なにやらエレクトロニックな音が聞こえてきた。

 
なにーーー!この曲で盆踊り!?
と、驚いたが、踊りだすと何故だかしっくりくる。(振り付けは東京音頭だったかな?) 先生方がキラキラ光っているのも何故だかしっくりくる。
もう “盆踊り” の概念は (いい意味で) 崩壊してしまったようだ。
 

そしてトドメに、「サザンオールスターズの希望の轍を炭坑節の振り付けで踊った時にはもう笑いが込み上げて吹き出してしまった。
みんなで輪になって何をしているんだろうと、客観的に見た時の異様さに可笑しくなった。 

ただ、ひとつ言えるのはものすごく楽しいということ。少々乱暴な言い方をすると、『もう踊れれば何でも良い』のかもしれない。
 どんな曲でもみんなで輪になって踊れば、“盆踊り” になってしまうのだ。


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ここの盆踊りが気に入ってしまったので、次の日も参加した。
2日目は「ノーメイクス」というアイドルグループが来ることもあってか、若者がさらに増え、熱気も増していた。
何曲か歌い踊ったあと、「すっぴん音頭」というオリジナルの音頭を踊った。振り付けもかわいい。
 
すっぴんぴん ソレ すっぴんぴん ♪
 
という歌詞がしばらく頭から離れなかった。
 

盆踊りというのは、今やコミュニティのひとつで、地域活性など様々な要素を含んでいる。伝統的なものを残しつつも、新しいものも積極的に取り入れたり、その地域のブランド力が試される。
これからの盆踊りは、より地域ごとの “色” が出てくるかもしれない。
 
 
中野駅前大盆踊り大会】
東京都中野区中野  中野サンプラザ前広場
7月下旬 (要確認)

 

若者が熱狂!!これぞ進化形盆踊り【にゅ〜盆踊り】

7月16日。池袋西口公園で行われた『にゅ〜盆踊り』に参加してきた。開催は今年で9回目で、去年までは1日だけの開催だったが、今年は2日間行なわれた。前から気になってはいたのだけれど、他の盆踊りと日程がかぶったりでなかなか機会がなかったのだが、ようやく行くことができた。

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にゅ〜盆踊りとは、近藤良平さんが主宰の「コンドルズ」というダンス演劇コント集団(サラリーマンNEOなどに出演)が企画した盆踊りで、オリジナルの振り付けやユニークな仕掛けがふんだんに盛り込まれている。開催当初は、池袋にある「あうるすぽっと」という劇場で公演&ワークショップという形でやっていたらしい。その後、今の櫓を中心に輪になって踊る、いわゆる “盆踊りスタイル” になっていったそう。


櫓の上にはコンドルズのメンバーたちがいて、振り付けを教えてくれる。ワタシが会場に着いた時は「天草小唄」という熊本民謡の振り付けを教えている最中だった。早速、輪の中に加わる。

「ここはサザエさんの動きね〜!(列になって家に入っていく時のアレ)」など、楽しく分かりやすく面白く教えてくれるので、これは盆踊り初心者でも楽しめるかも、と思った。振り付けも今風な動きを取り入れて、若者が参加しやすいようになっていた。実際ほとんどが10代〜30代の若者たちで、コンドルズのファンらしき人たちが多くいた。(というかここに来る人はほとんどがファンなのかな?)


こ・・これがウワサの超高速リンダ!!

次に、何やら短い甚平を着たアイドルのような可愛い女の子達が櫓の上に上がった「プロジェクト大山」というコンドルズの妹分らしい。

ヨッ!待ってました!!といった感じで、会場は一気にボルテージが上がる。そして、ウワサには聞いていたあの曲がかかる。


山本リンダ「どうにもとまらない」だ。


まずは大山がお手本を見せるため踊り出すと、アイドルのコンサート会場に来たのかと錯覚するほどの熱狂ぶり。そしてもはや盆踊りの枠を超えている高速で激しいダンス。『な、なんだこの振り付けは、、!!』こ、これを踊るの?と少々戸惑っていたワタシだが、周りを見ると、早く踊りたいといった感じでみんな目がキラキラしている。そんな空気感にワタシも徐々に飲み込まれていき、、

次の瞬間には腰をフリフリしていた。

浴衣が崩れるのも気にせず、飛んで跳ねて回って腰をフリフリして、しまいには、一周ではもの足りずアンコール!アンコール!と叫んでいた。まさに “どうにもとまらない” 状態

激しい踊りと、人々の熱気にクラクラしつつ、しばしの休憩時間で出した汗の分だけビールを流し込む。

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強制コミュニケーション!“フォークダンス式”盆踊り

コンドルズが生み出した音頭、「にゅ〜盆踊り」はペアになって踊るらしい。指示された通りに、その場で初めて出会った人とハニカミながらもペアになる。これは、踊るたびに相手が次から次へと変わっていくというシステムになっている。見ず知らずの人たちと向かい合って、手をパチンと合わせたりするのは、照れつつもなんだか心地いい。途中、相手を誘惑する様な小っ恥ずかしい振り付け(通称、夏木マリ) があるのだが、テンションが上がってるのとお酒のチカラも借りて、みな妖艶な表情で相手を誘う。

こんなにも、一緒に踊っている人たちの顔が見れる踊りは無いかもしれない。輪になって踊る盆踊りは大体、左右どちらかの方向に回るから、隣の人の背中を見て踊るか、中央の櫓を見て踊ることが多い。また、通常の盆踊りでのコミュニケーションは、輪の中であくまで “自然” と、隣の人に踊りを教えてもらったり、会話が生まれたりという感じだが、にゅ〜盆踊りでは、半ば “強制的”にコミュニケーションを生み出すといった感じである。

もうひとつ面白いなと思ったのは、事前に踊りの講習会 (ワークショップ) に参加すると、「しゃ〜隊」という名の盆踊りリーダーになる。当日、しゃ〜隊は積極的に踊りに参加し、周りの人に踊りを教えたり、踊っていない人に声をかけたり、列を整えたりと、いちスタッフとして働くのだ。こうした人たちを散りばめることによって、会場がより一体となり、盛り上がる。


その後も、オリジナル振り付けの「東京五輪音頭」や、シウマイの振り付けが可愛い「崎陽軒音頭?」や、なかなか終わらない「お祭りマンボ音頭」などを踊った。


若者たちが狂ったように踊っているのを見て、こんなにも盛り上がる盆踊りがあるのかと、驚いたと同時に嬉しくもあった。確かに、これまでの盆踊りとはひと味もふた味も違う、まさに “にゅ〜” な盆踊りであった。 

盆踊りはまだまだ色々な可能性を秘めているのかもしれない。

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【 にゅ〜盆踊り 】

東京都豊島区西池袋  池袋西口公園

毎年7月中旬あたり (要確認)