静寂の山里に響き渡る祈りの声【綾渡の夜念仏と盆踊り①】
まだまだ寒い日が続く2月。
しかし、ワタシは四六時中、
''今年の夏はどこの盆踊りに行こうかなあ''
と頭の中は盆踊りでいっぱいだ。
盆踊りに恋い焦がれている。
去年行った盆踊りのことをまだ全然書ききれていないので、思い出しながら少しずつ書き綴っていこうと思う。
去年のお盆に『徹夜盆踊りの旅 2016』と題して、岐阜、愛知、長野を巡った。
その中で出会ったのが、愛知県豊田市綾渡町 (旧足助町)で行われている「綾渡の夜念仏と盆踊り」だ。これは、国指定の重要無形民俗文化財にもなっている。
紅葉の時期に人気のスポット、香嵐渓から約5キロほど山里の中を進んでいくと、綾渡(あやど)という集落にたどり着く。
元々この地域の夜念仏は、新仏のある家を回りながらその霊を鎮めるために念仏を唱え、踊っていたそうだ。かつては綾渡の周辺でもたくさん行われていたそうだが、今残っているのはここだけとなってしまった。
そして今は形を変え、夏の時期に2回、綾渡にある平勝寺というお寺で行われるようになった。ここは聖徳太子が開いたとされる古いお寺である。
8月15日、お盆真っ盛り。
山に囲まれた小さな集落の中に平勝寺は静かに佇んでいた。境内にはすでに、お揃いの浴衣を着た保存会らしき方々や、ご近所の方々が集まり始めていた。
境内の真ん中には、2つの折子灯籠が立てられている。正面には南無阿弥陀と書かれている。
その他にも、何やら絵が描かれているので、近づいて見てみると、一方は極楽の絵が、もう一方は地獄の絵が描かれていた。
これはどういう事を意味するのだろう。
極楽と地獄は常に対になっているということだろうか。だとしたらどちらに転がるかは紙一重なのではないか。
などと考えにふけりつつ、これからはじまる出来事に胸を躍らせた。
参道脇には多くのカメラマンたちが三脚を立ててその時を待ち構えていた。
日も暮れてきた午後7時頃、ついに夜念仏が始まった。平勝寺へと続く一本道にはロウソクが並べられ、先ほどの極楽と地獄の絵が描かれた折子灯籠を先頭に、笠をかぶった人々の隊列が境内に向かって進んでくる。
山里に、静かに念仏を唱える声と鉦の音が響き渡る。
ワタシもその様子を固唾を飲んで見守る。
何だか、とんでもないところに紛れ込んでしまった。という感じがした。
その後、隊列は参道脇の広場に輪になり、また念仏を唱え始めた。
気が付けば日も完全に落ちて、あたりは真っ暗闇になっていたが、月の光に照らされてさらに厳かな雰囲気に包まれていた。
灯籠のぼんやりとした灯りだけが宙に浮いている。
時折、カメラのフラッシュがパシャッと光り、その時にだけ人の影がくっきりと映し出されるのがまた不思議な光景だった。
隊列はゆっくりと進み、やがてお寺の中に入っていき、さらに念仏が唱えられる。低くなったり高くなったり、絶妙なハーモニーに吸い込まれそうになる。
のちに調べてみると、 参道で唱えていたのは『道音頭』石仏の前は『辻回向』、山門前は『門開き』、観音堂前は『観音様回向』、氏神神明宮前は『神回向』、平勝寺本堂前では『仏回向』というらしい。
この地に来たのも、この風景を見たのも初めてなのに、なぜかとてもノスタルジックな気持ちになり、胸がキュッと締め付けらるような感覚になった。
約1時間に渡って念仏が唱えられ、ついに夜念仏が終わった。ワタシはフッと、緊張から解き放たれた。
ここからは、いよいよ盆踊りの時間だ。
つづく