盆踊り中心の生活

盆踊りや祭りの体験記。身体で心で感じたことを綴っていきます。あぁ、明日はどこで踊ろうか。

音頭取りの神技とエネルギッシュな踊り【上野の盆踊り】

2017年8月15日。福井県南越前町上野にある栄泉寺で行われる、上野の盆踊りを訪れた。

 

以前、踊り仲間からここの盆踊りのことを教えてもらい、現地で録音した音源を聴かせてもらったのだが、聴いた瞬間「これは行かなければ」と思った。どんな盆踊りが行われているのか、想像するとワクワクが止まらなかった。

 

 

上野は、近くに北陸自動車道が走るが、そこから一本道を入った静かな山あいの集落だ。

目的地の栄泉寺に近づくと、道沿いに『はねそ』『どどら』などと書かれた提灯が点々と並んでおり、会場までの道案内をしてくれていた。おそらくこの文字は盆踊りの曲目のことだろう。

 

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提灯に従って進むと、目がチカチカするほどの蛍光色で『ようこそ上野盆踊りへ 〜みんなで踊ろう盆踊り〜 』と描かれたゲートが現れた。静かな集落にこの派手な演出がなんだか可笑しくて、もうこの時点でワタシのハートはガッチリ掴まれていた。

 

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受付の女性たちに挨拶をし、東京から来たことと、初めて参加することを話すと、皆さん笑顔で歓迎してくれた。そして言われるがままに名前と住所を記入すると、番号札を付けてもらった。3番だ。「頑張って下さいね〜!」と見送られたが、ワタシはこれから何が起こるのかいまいち分かっていなかった。そういえば、看板には『懸賞』と書いてあった。とりあえず、頑張ったら何かが貰えるかもしれないらしい。

 

 

境内には櫓が立っている。提灯の赤色が暖かく “ぼやぁ” っと浮かび上がる様子はいつ見ても大好きだ。この世とあの世を繋ぐ、不思議な色だ。

  

 

少し時間が早かったため、まだほとんど誰もいなかったが、お寺のお堂の階段に小さなおばあさんがひとり座っていた。挨拶をすると、なにやらペラペラと話し始めたのでわたしも隣に座ることにした。おばあさんは、「もうここへ来て60年になる」「昔は踊ったんだけどね」などとお話しをしてくれた。知らない土地で初めて会った人なのに、無性に居心地が良くて、何時間でも話していられるような気がした。

 

 

気付けば、徐々に人が集まりだし、さっきまで静かだった境内に子供たちの楽しそうな声が響き渡っている。

 

 

盆踊りが始まる夜の8時になった。

すると、何やら遠くの方から騒がしい声が近づいてくる。隣にいたおじさんが、「来たぞ来たぞ〜」と言うので、声が聞こえる方へ行ってみると、揃いの浴衣を着た男性たちが、唄を歌いながら境内に入ってきた。

 

ずいぶん上機嫌だなぁ。

 

いや、、、

 

完全に酔っ払ってる!!!

 

 

聞くと、保存会の方々は盆踊りが始まる前にお寺の近くの集会所でしこたまお酒を飲むらしく、始まる頃には皆さんかなりいい感じに出来上がっているそうだ。

 

千鳥足の男性たちは、唄いながら櫓の周りを踊りはじめ、次第に輪になっていく。

これが盆踊りスタートの合図のようで、待ってました!と、その後ろから子供達や他の参加者たちも輪に加わり、境内は一気に楽しい雰囲気でいっぱいになった。

 

そんな粋な演出に、ワタシは心の底から喜びが 溢れ出てきて、身体の細胞たちがウズウズと騒ぎ出した。早速ワタシも輪に加わり、見よう見まねで踊りはじめる。

 

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 一番初めは『どどら踊り』という曲で、これは雨乞いの踊りと言われているそうだ。

 

上野の盆踊りは、県の無形民俗文化財に指定されており、音頭取りの唄声のみで踊るシンプルな盆踊りだ。しかし、音頭取りの力強く伸びやかな唄声に、踊り手の威勢のいい合いの手が加わり、とても賑やかで明るい雰囲気が漂っている。

『はねそ踊り』を中心に、曲目は15種類ほどあり、櫓の上にいる4名の音頭取りがDJのように切れ目なく次々と曲を繋いでいく。これがめちゃくちゃカッコいいのだ。うまいこと曲調が変わる様子は、まさに神技だ。

 

それに合わせて、踊りも途切れることなく変わっていく。踊りの種類も様々で、伸びやかに手足を動かす踊りや、軽快なステップを踏む踊りなど、ワタシはついて行くので必死だった。

 

櫓の下には酒樽がドーンと置いてあり、踊っていると保存会の方々が柄杓で日本酒を振舞ってくれる。

酒好きなワタシとしては最高に嬉しいので喜んで頂いていたのだが、断るということを知らないワタシは、次々と柄杓を口に運び、櫓の周りをまわる度に、酔いもまわっていった。

 

 

踊りの輪の中には、一人異様な格好をした人がいる。笠をかぶり、ミノを着て、なにやら長い竹の棒を持ちながらウロウロとしている。

その怪しい風貌と、棒を引きずり砂を掻く音が、なんとも奇妙で少々不気味だ。

これは、「ミノムシ」と呼ばれ、踊りの輪を整理する役目なのだそうだ。また、悪さをするものを制し、風紀の乱れを正すという意味合いもあるらしい。

輪が乱れると、棒で “ビシャンビシャン” と地面を叩いたり、輪からはみ出ないよう棒で円を描いたりしている。

ある程度理解できるくらいの子供は笑っているのだが、赤ちゃんは大泣きしている。

こういう、子供の頃に出会う何か分からないけれど “怖い” 存在というのは、大人になってからも無意識の中に存在し、いつまでも自らを律することを教えてくれるような気がする。

 

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保存会の方々はとても気さくで(酔っぱらっていることもあり)付きっきりで教えてくれたり、もっといい先生がいるから!と、奥様を連れてきて教えてくれたり、至れり尽くせりだ。

ワタシはそれに答えるべく、本気で踊った。

「腰使いがなってない!」とダメ出しをされながらも、本気で踊った。

  

 

上野の盆踊りは、岐阜県の郡上おどりがルーツになっているそうだ。踊りは違うが、曲目に『松坂踊』があるのはその名残りだろうか。気になったのは滋賀県江州音頭とほぼ同じ振り付けがあり、曲目にも『江州踊』がある。また、富山県から伝わったのか越中踊』というのもある。隣接する土地の踊りが集まり、さらに独自の変化を遂げて今の形になったのではないかと想像できる。

 

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だんだんと、音頭取りの唄のペースが上がっていき、それにつられて踊りも激しさを増してきた。

ラップもしくは早口言葉を連ねたかのように次々と湧き出る言葉に合わせて、ほとんど走るように、手足を右へ左へ後へ前へ!ワタシは足がもつれるもつれる!合いの手にもさらに気合いが入り、境内はものすごい熱気に包まれていた。田舎の小さな境内でこんなにも多様でエネルギーに満ち溢れた盆踊りが行われていたとは、、、!

 

そしてとても感動したのは、たくさんの子供たちが一生懸命踊っていることだ。しかもみんな踊りがとても上手で、ちゃんと次の世代へ引き継がれていることを感じ、勝手に嬉しくなった。ワタシも子供たちをお手本に、負けじと踊る踊る踊る踊る!

  

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そうそう。気になる『懸賞』はというと、盆踊りのあいだ、数名の審査員が踊りの審査をしていたのだ。その得点に応じて賞品がもらえるというシステムになっている。

時折、踊っている最中に懐中電灯で、浴衣に付けている番号札を照らされ、「はい、3番ね」と言ってなにやら記入している。

 

見られてると思うと、踊りにも気合いが入る。が、その意思とは反してなかなか上手く踊れない。なぜなら酔っ払っているからだ。

 

 

幸福感と疲労感がごちゃまぜになった頃、ようやく、必ず最後に踊るという『千本搗き』が始まった。みんなこれを待ちわびているそうだ。最後の力を振り絞って踊る。気付けば、踊り始めてから3時間が経っていた。その間、唄も踊りも途切れることなく、ノンストップでまわり続けていた。

 

この土地のエネルギーと人々のエネルギーが混ざり合い、解放されていく。

そして、人間の原始的な部分が露わになった時、森羅万象(もしくはそれ以上の何か)と繋がれたような、理屈でも言葉でも表せない感覚の波が静かに、時に激しく押し寄せてくるのだ。

 

 

そしてついに、唄い続けていた唄声が聞こえなくなり、鳴り続けていた下駄の音が鳴り止むと、拍手と共に、盆踊りが終了した。

ワタシは今にも膝から崩れ落ちそうになるのをこらえて、呆然と立ちすくんでいた。

 

 

 

間もなくして表彰式が始まった。

まずは子供の部から発表されていく。

子供達は目をキラキラさせて自分の名前が呼ばれるのを待ちわびている。

 

「あ〜やっぱりあの子上手かったもんな〜」「この子も結構がんばってたけどな〜」

と、近所のおばちゃんのような心持ちで発表を聞いていた。やはり、人に見られて評価されるというのは子供も大人もドキドキするものだ。もちろん、盆踊りは上手いも下手も関係ないのだけれど、しかし、そのドキドキや嬉しさや悔しさがあるからこそ、もっと上手くなりたい、もっと知りたい、と好奇心を持つことができるのだ。

 

懸賞システム素晴らしいじゃないか!!

 

 

そしてついに大人の部が発表される。

ワタシは、あわよくば、、と期待する気持ちを抑えつつ冷静に数字を聞いていた。

 

 

 

「、、、3番」

 

 

 

ぎゃーーー!!!

ビックリしたのと嬉しさで飛び跳ねそうになった。(実際ちょっと飛んでたかも)

 

地元の方々の拍手に包まれながら、両手で抱えるほどの大きな賞品を受け取った。

ワタシは『羽根曽賞』という賞を頂いた。

「初めての人でなかなか羽根曽賞は取れないよ〜」「頑張って良かったな〜!」と地元の方々から声をかけていただき、賞をもらえて嬉しいのと皆さんの温かさにウルッと感激してしまった。 

 

「ここの土地も人も盆踊りも大好きだーーー!!!」

 

と、叫びたい気持ちを抑えながら、静けさを取り戻した境内をあとにした。

 

 

 

盆踊りが終わった後は、いつも少し寂しい気持ちになる。ずっとこの時間が続けばいいのに。

 

でも、この “お盆だけの出逢い” がワタシをワクワクさせてくれるのだ。

想いを馳せ、何度も何度も思い出せばいいじゃないか。

 

 

さあて。ここでの記憶と大きな賞品を抱えて、また日常へ戻るとするか。

 

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 【上野の盆踊り】

福井県南越前町上野  栄泉寺境内

毎年8月15日 20時頃〜